ユーザエクスペリエンスのためのストーリーテリング
読書目的
本書の主なターゲットであるWebサービス設計者とは違った視点で読んだ。つまり、業務改善を行う上で、改善される側の組織の人に対して、どうやって改善施策をデザインし(見せて)、グッとくるストーリーを共有して、当人が改善施策の主体者として関わっていって貰えるようにしていくかという視点で読んだ。問題を抱える組織の担当者と、そのマネージャーを橋渡しするストーリーを紡ぎたい。
本まとめ
どうすれば良いストーリーを作ることができるのか?
・ストーリーテリングはアートに匹敵する技能
・オーディエンスを理解するところから始める
どのくらいオーディエンスのことを考えるべきか?
・ストーリーのゴールは伝えることではなく、オーディエンスに聞いてもらい、彼らになにか新しいことを持ち帰ってもらうこと
UXストーリーの効果
・ストーリーは人類の魂に深く組み込まれたコミュニケーション形式。多くの情報を小さな空間に詰め込むことが出来る。
ストーリーは聞くこと、そして観察することから始まる
・UXデザイナーは沢山の人から話を聞く必要がある。私達の仕事は、ユーザー、ステークホルダー、同僚といった異なるグループの人たちを結びつけること。
・リアリーリスニングを身につけることは、ユーザーが欲しいとただ口にしたものだけでなく、ほんとうに彼らが必要とすることを見つけ出すために重要なのだ
・リサーチのゴールは他の誰かが持つ視点を理解するということ
・人が話していることのみならず、それを口にする理由に耳を向ける
・ユーザーの”あたりまえ”は話してもらえない(ある機器が冷凍庫で働く人々に使われるものだということは、デザイナーに伝えられていなかった。結果、グローブをつけている彼らには、そのデバイスのキーは小さすぎた)
・人々が話したことと全く別のことをするような例や、簡単だと言っておきながら実際にはそのタスクを完了するのにとても苦労した、という事例で溢れている。
・私達が必要としているのは、中断や聞き手の反感といった脅威を感じることなく、「考えを大声で外化する」ことの許される、私たちの文化において最も価値のある静寂なときなのだ。話を深く聞くということは聞き手から話し手への贈り物なのだ。
・アクティブリスニングのための5つの要素
- 注意をはらう。話し手にあなたの絶え間ない注意とメッセージへの同意を伝える。
- 聞いていることを示す。ボディランゲージやジェスチャーで、相手に注目していることを伝える。
- 繰り返す。定期的に言い換えたり要約したりすることで、話されたことに対する理解を示す。
- 判断を保留する。話し手に最後まで話をさせる。妨害しないこと。
- ふさわしい応答をする。応答するときは率直かつオープンに。
・あなたのゴールは、彼らが言わなければならないことを自由に話して、他の人はただ聞いているという環境を作ること、そして意識的に聞くということ。メールを読んでたリ、考え事をしていたり、リストにあるタスクを実行していたり、あるいは次に何かを言おうと考えてはいけない。
ストーリーの倫理
・人から聞いて集めてきたオリジナルのストーリーがある。それを他の人に語ることで、最初に話をきいたユーザーとオーディエンスを結びつけることが出来る
・他の人々から得た資料を用いているので、ストーリーだけでなく、その情報源に対しても倫理的な責任を背負う
・表現の簡潔さと明確さに加えて、公正さと信憑性が必要
・純粋な理論や理由は効果的ではない。ストーリーは、非常に効果的で人々に思考やアクションを促す
ストーリーを集める
・聞くということは、ただ調査参加者が選んで話すことばを聞くだけではなく、それをどのように話したか、省略して話さなかったのは何かまでを聞くということ
・短い質問を幾つかする代わりに、ひとつだけオープンな質問をする
・一度「なぜ?」あるいは「それについて教えて下さい」と質問する習慣を身につけることができたら、後はただ彼らについて話してもらうようお願いするだけ。
・インタビューアーとしての仕事は、参加者にあなたが注目していることは何かを知らせ、彼らが話をする時に心地良くいられるようにすること
・当たり前に想定されることについて質問するとき、新しい機会が得ることができる
・もしインタビューの相手がリサーチのトピックから離れてしまったら、そのこと自体が重要な情報源である。脱線した理由を探るために時間を割かなければいけない。
・エコー:相手が最後に発した言葉やフレーズを、そのまま彼らに質問として返すテクニック
・どんなテクニックを使ったとしても、相手が答えるべきことを教えないよう、あるいは勝手に解釈しないように注意する。彼ら言葉を使う。
ストーリーを選択する
・ストーリーを選択するプロセスは、他の様々な分析と同じように反復的なものだ。
・ストーリーは自然に受け入れられ説得力があるので、議論やデザイン変更といったアクションに火をつける
アイデアを生むストーリーの使い方
・自分自身の過去の体験や仮説から、ストーリーを生み出す。
・ストーリーに適するブレインストーミングルールの3つ
- 判断を保留する:どんなアイデアも却下しない。どんなアイデアもひとつのよいアイデアであり、どんなに馬鹿げていようが問題ない。アイデアに羽ばたくチャンスを与える前にその良し悪しを判断することほど、ブレインストーミングの精神を削ぐものはない。
- 野心的なアイデアを歓迎する:最も独創的な考えはソリューションのキーになり得る。積極的に受け入れる。
- 他人のアイデアを足がかりにする:他人のアイデアを足がかりにすれば、そういったクレージーなアイデアを地上におろし、真のイノベーションに変えられる。
ストーリーを共有する
・自分の目的が明確であり、オーディエンスに耳を傾け、自分とオーディエンスの目的とのギャップを埋めるストーリーが見つかれば、うまくいくストーリーの準備は完了。
・最終的に、ストーリーをつくり上げるのはオーディエンス。あなたが提供するのはそのために必要な情報で、オーディエンスの視点や先入観にあわせて提供しなけらばいけない。
・あまりに情報が少なすぎると、オーディエンスはあなたが考えているものとは大きく異なるストーリーを作り出してしまい、オーディエンスとの間に隔たりがてきたり、苛立たせる原因になる。これは、慎重なバランス感覚が求められる作業。
・ストーリーを話しながら、オーディエンスの仕草や顔の表情、コメントに対して注意を払う。そうすることで、ストーリーがうまくいっているか、またはオーディエンスが作るストーリーが意図したものかどうかを確かめることが出来る。
・相手の聞きたいことを尋ねて、彼らの答えに本気で耳を傾ける。
・マネージャーは短くて簡潔なミーティングを好むから、ストーリーのなかで最もインパクトのあることを話すようにする。
・もし新しいアイデアを提案しようとするなら、よく知られた状況に結びつけて話す方法を見つけてください。そうすれば、よりもっともらしく聞こえる。
・ミーティング中に単にアイデアをポロッと出すのではなく、ストーリーによってコンテクストをつくり、アイデアの正しさを説明する。
・並列駐車の画期的なアイデアも日常的に並列駐車の難しさを味わっていない田舎ぐらしの人には響かない
・マネジメント側の人間とストーリーを共有するときは、彼らがストーリーを作った背景ではなく、そのストーリーのもつメッセージに興味があるということを覚えておくこと。彼らは簡単に理解できるストーリーを求めている(主張が明快、ユーザリサーチや他の分析から得られたデータに人間味が加えられている)。
オーディエンスに配慮する
・ストーリーのあらすじが他のキャラクターに注目していても、オーディエンスの目線から話すようする。
・あなたが宇宙の中心でないことを思い出すのは、意外に難しいものだ。
・あなたは自分が多様な関係性を持ちながら集団に所属し、一度に全員の橋渡しをする必要がある。その時は、たとえば、50,000フィートの高さから100フィートの高さまで瞬時に視点を下げるようなモードの切替えを行う必要がある。
・一足飛びでオーディエンスを遠いところに連れて行こうとすると、大抵うまくいかない。この課題を解決するには、全く新しいことを言う前に、既に話していることを描写するストーリーから始めることが有効
・オーディエンスは、各自が自分の視点でストーリーを聞いている。
・オーディエンスとあなたの関係や、ストーリーのコンテクストについて両者が知っていることは何かを考える。
ストーリーの構成要素を組み合わせる
・「盲目の男たちとゾウ」の例え(触るパーツによって、ゾウのとらえかたが全く違う)
・ストーリーの視点を選ぶということは、すべての経験の中の、特定の部分を抜粋するということ。
・視点を定めるひとつの方法は、ストーリーに表現したい目的や考え方について検討してみること。
・ストーリーのコンテクストを設定する際、ストーリーが長くならないように、ユーザが想像で補える部分は削って、ストーリーを主張するために重要なディテールだけを残すとよい。
構造とプロットを作る
・慣れ親しんだ構造を使えば、ストーリーをつくるのが容易になり、聞き手の理解も深まる。
・まず最初に構造に必要な機能は、誰かが助けを必要としていたり、解決すべき問題があるような状況。
・ストーリーの中盤では、試練に立ち向かい、そして遂には試練に打ち克つ。
・クリストファー・アレグザンダーの「パタン・ランゲージ」のなかで、建築の構成要素は、クリエイティブな方法によって、際限なく再配置・再利用できると考えていた。
・オーディエンスがストーリーの構造を理解することができれば、彼らは1段上のレベルでストーリー理解することが出来る。ストーリーの流れがイメージできると、オーディエンスは、ディテールに集中してストーリーを聞くことができる。そうすれば、オーディエンスがストーリーの展開を推測するために無駄な時間をさく必要がなくなる。
・構造をつかうことで、何が次にくるべきか、何が不足しているのか見つける手がかりになる。
・ストーリーは時系列に従う必要はない。ビジネスパーソンに対しては、ストーリーの結末を最初に伝えた方がより効果的かもしれない。彼らはずばり要点を言うスタイルの方に慣れているから。
・常に真実味があることが重要
・オーディエンスは「これが本当なのか?本当にありえるのか?私はそうは思わないけど、どうなんですか」と考えだすことはけしてない。オーディエンスが心のなかでそのような質問をする時、あなたはすでに彼らの関心を失ってしまっている。もっともらしさはストーリーの各場面ごとに評価されていく。
・UXストーリーのゴールは、オーディエンスのもっともらしさに対する感覚を変えて、新しいアイデアの可能性を開くこと。ユーザーエクスペリエンスやビジネスのストーリーはもっともらしさにかかっている。もっともらしさは信頼に繋がり、リスクを低減する。
・適合性:ストーリーは事実と合っているか?無理やり当て込んでいないか?
・独自性:説得力のある説明か?あるいは、他にも似たような話がたくさんありそうか?
・オーディエンスの創造性:オーディエンスが自らディテールを組み立てることが出来る余地があるか?あるいは、ディテールが詳しすぎてオーディエンスの想像の余地を奪っていないか?
・定義された構造で取り組むと、ストーリーを繰り返し語るのが容易になる。
・もしストーリーがとても明快であれば、他の人もそのストーリーを話そうという気になる。
・美しく作り上げられたストーリーは、単なる寄せ集め以上のものになる。
・馴染みのあるものから見慣れないものへ:オーディエンスが慣れ親しんだ心地よい話から始め、次第に新しい、見慣れない話を展開していく構造。
・フレーム化:始まりと終わりが同じように見える構造のストーリー
ストーリーの伝え方
・あなたはオーディエンスが体験するストーリーの一部なのだ。
・自分でストーリーを話す利点:ストーリーを聞いているオーディエンスを直接見ることが出来る。オーディエンスからの質問に答えるためにストーリーのディテールを追加したり、時間が超過しそうなときに、ストーリーの長さを短縮することが出来る。彼らの表情やボディランゲージを手がかりにして、ストーリー上の誤解を招きそうな部分を補足したり、集中力が低下したりしそうなポイントを省略して話すことが出来る。
・オーラルストーリーは「ダイナミックで対話的、感覚的」であり、ただ読んで話すだけのスピーチとは違うのだ。
・話し言葉は、書き言葉とは対照的なリッチなメディアで、意味を伝えるために言葉や声のトーン、表情、ジェスチャー、姿勢、視線、距離、間合いなど、書き言葉より多くの要素を使うことが出来る。
・言葉では間違いないことを伝えているが、姿勢や声のトーンからはためらいを感じさせ、目の動きは「いつバレるか」と恐れを発しているようではダメ
・プレゼンの準備を完璧にするためには、リスナーの前で練習する必要がある。そして、最も効果的な言葉やトーンなどを全て確認するようにして、オーディエンスとラポールを築く練習をする。
・プレゼンのセリフを暗唱するつもりなら、それはオーディエンスを無視してることになる
・練習、練習、練習
・リハーサルすることをお勧めする。ストーリーを話す準備をするためには、ストーリーとともに過ごす時間が大切なのだ。
- ストーリーを数回読む
- ストーリーの魅力を分析する
- ストーリーの背景や文化的意味を考える
- ストーリーとうまく付き合う
- 視覚化する:音や味、香り、色の感覚を想像してみる。ストーリーを話しながらこうした感覚を頭の中でイメージ出来れば、あなただけでなくオーディエンスにとっても、ストーリーにリアリティが出てくるだろう。あなたがストーリーをいきいきと描くことが出来れば、オーディエンスも同様にストーリーをいきいきと思い描くことが出来る
・オーディエンスが退屈してしまうのではないかと不安に思って、ストーリーをうまく提供することが出来ないにも関わらず、早口に喋ることはストーリーにとってはよくない。
・オーディエンスにとって適切なペースでストーリーを話すこと
・ペーシングは、ストーリーの特定のポイントで細かな話題から全体の話題に戻るときに使うと良い。
・ストーリーのある場面では、ほんの一瞬の出来事にフォーカスし、時間をかけて解説するかもしれない。またその一方で、話を飛ばしてずっと先の内容に焦点をあてる場面もある。
・沈黙を恐れてはいけない;オーディエンスが頭の中でイメージを描けるように沈黙をうまく利用する。
文書のストーリー
・不必要な説明や補足コメントはなるべく避ける
・イラストやその他ビジュアル要素、および余白を効果的に使うことによって、各ページでストーリーにペースを与える
→楽しんで仕事をする。ストーリーボードは作成するのも共有するのも楽しい。
→目を引くコミュニケーション手段を使うことによって情報に興味を持たせる
・ビジュアルを使用することでストーリーにコンテクストや文化的な背景を加えることができる。
・ビジュアルはストーリーに深みを与えることが出来る
・プレゼンテーションは三幕のストーリー(スライド例:http://www.slideshare.net/themoleskin/crucial-conversations-in-social-media)
- 第一幕:ストーリーの設定:アネクドート(小話)や設定、主人公、不均等、バランス、およびソリューションをオープンにする
- 第二幕:問題を展開する
- 第三幕:ソリューションを説明する
- 第四幕(任意):アクションにつなげる
・プレゼンテーション全体のストーリーができてから、スライドの作成を開始する。そうでなければ、まだスライドを作り出さいこと
新しいことに挑戦する
・よいストーリーを話すためには、まずオーディエンスに興味を持って聞いてもらうための方法を考える
・私たちが日常的に使っているグラフや図、また理性的な議論には限界があり、対話を重ねていくことこそが効果的である。しかしその対話も、大きな変化に対応するためには実用的ではなく、ストーリーテリングだけが、リスナーの想像力を喚起させ、沢山のことを伝え、納得してもらうことが出来る。
・ストーリーテリングの活用ブログ:http://rosenfeldmedia.com/books/storytelling/blog/